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北欧の凍てつくような寒い夜空を見ていると、静かな中に、冴え渡るように澄み切ったバイオリンの音が聴こえてきた。」と表現したいような、諏訪内晶子のとてつもなくすばらしい演奏を聴くことができた。
今年のNHK音楽祭は12月8日に最後の演奏会が開かれた。毎年、テーマを決めて、そのテーマに合った演奏が行われる。今年は「魅惑のバイオリン、魂のコンチェルト」というテーマで20代から30代のバイオリニストに焦点を当て、バイオリン協奏曲を中心に演奏会が催された。
私はこの最後の演奏会を聴いた。シベリウス作曲の「フィンランディア」と「バイオリン協奏曲ニ短調」、「交響曲第2番ニ長調」という、シベリウスの曲としては最も有名な曲ばかりである。
オーケストラはロンドンの名門、フィルハーモニア管弦楽団、指揮はウラディーミル・アシュケナージ、それにバイオリンソロが今や日本を代表するバイオリニストとなった諏訪内晶子である。
解説の奥田佳道氏によると、12月8日はシベリウスの誕生日だそうで、演奏会にこの日を選んだのは、そのためのようである。昨年はシベリウスの没後50年で多くのCDが発売された。今回の指揮者である、ウラディーミル・アシュケナージの新しいシベリウス交響曲全集も発売されている。
最初の曲「フィンランディア」は1900年に帝政ロシアからの独立を願って作曲された交響詩で、その歌はフィンランドでは第二国家として愛唱されているという。ちなみに、フィンランドの独立記念日は12月6日である。
「フィンランディア」はクラシックファンなら誰でも知っている曲で、演奏会の最初に持って来るのに丁度良い10分足らずの曲である。オーケストラが演奏会場の音響をチェックするのには適度な曲だ。空席の会場でリハーサルをやってはいるが、満席になったら、音の響きがまるで違うからである。聴衆の立場からも最初はまず、会場の響に慣れることが必要になる。そういう意味でこの「フィンランディア」が名演奏とは言いがたかったのも仕方がない。このNHKホールに慣れているはずのアシュケナージが指揮してもオーケストラメンバーにとってはやはり演奏しずらかったと思う。
今回のNHK音楽祭で最も聴きたかったのが、「バイオリン協奏曲ニ短調」である。とくに諏訪内晶子のバイオリンをこの曲を得意とする名門オーケストラと名指揮者をバックにして聴けるという願っても無いチャンスに恵まれたと云える。
この協奏曲はバイオリンソロが多く、独奏者の個性が遺憾無く発揮される曲である。
イントロ部分の弱高音はCDではなかなか聴き取りにくい部分だが、諏訪内の演奏はストレートに私の耳に飛び込んで来た。なんという緊迫感なのだろうと思った。オーケストラも彼女の集中力に釣られる様に引き締まった演奏になった。先ほどの「フィンランディア」の演奏とはまるで違う。第二楽章でのバイオリンの美しい高音、まさにストラデバリウス「ドルフィン」を駆使しての名演奏である。北欧の陰鬱な情景を表わす第二楽章から、一転して第三楽章のリズミカルで燃え盛るような音楽と続く。諏訪内のテクニックと内に秘めた情熱が充分に発揮された演奏である。
この演奏の間、私はすべてを聞き漏らすことの無いほどの緊張感をもって、心地よく酔いしれてしまった。終ったときにふっと、ため息が出てつぶやいた「すばらしい!!」の一言。
指揮者のアシュケナージが諏訪内に対して、御見逸れしましたと言わんばかりに御辞儀をし、握手を求めたのも印象的だった。
アンコール曲として諏訪内が演奏したバッハ「無伴奏バイオリンソナタ第三番のラルゴ」も彼女が得意とする曲らしく、素敵な演奏であった。ここでは最近のスタイルのヴィブラートを押さえ気味にした演奏で耳に心地よい響きである。
従来、このNHKホールの音響の悪さには定評があって、海外から来たオーケストラは随分戸惑うようだが、今回は前から10番目、左寄りのSS席でバイオリン協奏曲を聴くには最適の席だった。もちろんそれを狙って予約した席である。下手にホールが響いてくれるより、バイオリンの響がストレートに耳に入って来て、クリアーに聴こえる。
最後の「交響曲第二番ニ長調」はバイオリン協奏曲で演奏したオーケストラが大編成になり、緊迫感も引き継がれて、引き締まったすばらしい演奏であった。アシュケナージとしては彼の得意とするシベリウスで、彼の本領を発揮した演奏といえよう。
諏訪内晶子は1990年に「チャイコフスキー国際コンクール」で、日本人としては初めて優勝している。しかも、史上最年少であった。彼女の父君が私と同じ会社に勤務されており、この優勝の報をテレビで聞いたとき、一緒にいた同僚と喜び合った思い出もある。今現在、私は彼女の大ファンで、ほとんどのCDを持っている。シベリウスの「バイオリン協奏曲」も2002年録音でオラモ指揮バーミンガム市響と組んで演奏したSACDを聴いているが、今回の演奏は生演奏であることだけでなく、円熟した彼女の実力を充分に出しきった、音楽そのものの質としてもそれをはるかに凌駕したものであった。
今年のNHK音楽祭は「華麗なるオペラ・バレエ音楽の世界」と題して、オペラやバレエ音楽を特集している。昨年はモーツァルト生誕250年を記念して、モーツァルト・イヤーと言われただけに、NHK音楽祭も「体感!モーツァルト」だった。モーツァルトを得意とするロジャー・ノリントン、ニコラウス・アーノンクールといった、古楽奏法の指揮者が来日し、クラシック音楽界の話題となった。
私は、昨年は、ノリントン指揮のNHK交響楽団による、モーツァルトをいわゆるノン・ヴィブラート奏法で聴いて、N響のすごさを体感した。
今年はどれにしようかと迷ったが、オペラやバレエ音楽を得意とするオーケストラとして、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場管弦楽団が来日、演奏する。
プログラムの内容、指揮者とオーケストラの組み合わせで、やはりゲルギエフのほうが魅力がある。
ずいぶん前に予約して、チケットを購入したので、SS席が取れた。実際にNHKホールは満席になっていた。
プログラムの内容はすべてバレエ音楽で、順にチャイコフスキー「白鳥の湖」、プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」、最後にストラヴィンスキー「春の祭典」である。すべてロシアの作曲者だ。
印象からすると、最高にすばらしかったのは「ロメオとジュリエット」だった。ゲルギエフが最も得意とする作曲家のプロコフィエフであり、根拠地のサンクトペテルブルグではバレエのための演奏も日常的に行っているのであろう。
この曲は第3番まである組曲として演奏されることも多いが、1番、2番の中から7曲が演奏された。この演奏はさすがと思わせる、なんともすばらしい演奏であった。ゲルギエフとオーケストラの熱の入れ方が直接伝わってきたと云っても良い。
ゲルギエフは見かけによらず、とても繊細な演奏をする。「白鳥の湖」ではその繊細さがよく表われていた。しばしば聴く音楽ではあるが、やはり、生演奏の良さを堪能できた。
オーケストラは「春の祭典」で100名を超える大編成になった。残念なのは「春の祭典」の響が良くない。マリインスキー劇場のオーケストラがNHKホールに慣れていないのだと思う。オーケストラのメンバーは懸命に演奏するが、会場がまるで駄目なのだ。
「春の祭典」は演奏用バレエ音楽としては最高傑作に属すると思うが、不協和音が多いという音楽の特性が演奏会場を選んでしまう。
今回はSS席の真ん中よりほぼ右よりだったが、全く音が響かない。去年は良い席が取れず、2階の後ろの壁の近くだったが、音の響はそちらの方が良かった。
NHKホールは、この前のサントリーホールに比べると、全く駄目なホールだと思う。歌謡曲とか漫才なんかのようにスピーカーを通すのとは全く違う生演奏をNHKホールの良い席で聴くものではない。SS席は聴くためではなく、ステージの上を観るための席なのだ。あのホールに海外のオーケストラを招くのは日本の恥である。去年聴いたノリントンのモーツァルトはN響だったから良かったと思う。彼らはあのホールに慣れていてそれなりの音を出すように頑張っているのだと思った。
この記事をブログにアップするのが遅れたのは、NHKでの放送を聴いてから、それとの比較も入れて書こうと思ったからである。NHKの本業は放送することであり、放送では最高の音質になっているかもしれないという期待があった。放送は5.1チャネルで聴いたが、NHKホールの悪さがそれほど目立たないだけだった。